立体砂場概説

 

■初めに

これまでの園庭は、園内の事は園内でという方針から、遊ぶこと、運動会など競技すること、祭りなどの行事をすること、と様々な目的をはたすため、平面の空間であることが必要とされ、結果、遊具はその周辺に配置されたものでした。

ところが、近年「子どもにとって、遊びとは学習である」という考え方と、社会との連携との考え方から、園庭のあり方が変わってきました。

 

IPAの「遊びの権利宣言」(1979年制定)にはこう書かれています。

①「遊びは本能的なものであり、自発的なものであり、自ら生ずるものであり、生まれながらのものであり、探索的なものである」

②「遊びは子供の生活すべてである」

③「遊びは、子どもの中にある目に見えないあらゆるものを顕在化させる動力である」

④「遊びは相互交流であり、内なるものの表出であり、行動と意味を結びつけるものである。また、遊びはそのことによって満足感と成就感を子どもに与えるものである」

⑤「遊びは、子供の身体や心や感情や社会性を発達させるものである」

⑥「遊びは、子供が生きていくために必要な様々なことを身につける手段であって、単なる暇つぶしではない」

 

そこで、弊社では、園庭は子どものためにあろう、というコンセプトから、「おとなの都合による」園庭の端の遊具、の状況を別に活かせないか?という挑戦の一つとして『立体砂場』をご提案することといたしました。

規格一辺倒でなく、子どもの働き掛けで変化を起こせる庭、これはコミュニケーションの発信と応答とフィードバックの関係そのものと言えます。

 

変化を起こせるとは、子どもが『創造できる庭』と位置づけ、次の要素を持つこととしました。

 

また、年に1度程度の、従来の運動会や園庭を広く使う行事は、公共のグラウンドや体育館を「地域と連携」して利用することも、横のつながり・地域チームワークの一つとして、お考え頂いております。

 

■知覚と調和の要素

『立体砂場』には、砂や土の起伏傾斜があります。そして既存遊具もあります。この空間は、人工と自然を線引きさせることなく、調和させます。

月齢ではっきりと分ける庭から、ゾーニングによる発達段階の共存が図れます。

従来なら、「4歳児さんは、この遊具」「3歳児さんは、砂場」と区切られてしまう興味の枠を、途切れることなく追求し、次々に探求することができます。

探求により、空間の広さや奥行の知覚、物の属性を知り、手に触れる感触の違いを認識してゆきます。

 

■変化と想像力の要素

『立体砂場』は、「自然に近い遊び場」で、子どもの働き掛けで変化を起こせる庭として、変化を意図的にも偶然にも生み出します。

作りこめる庭は、自然の素材に存分に触れられることが必要です。天気の良い日に砂のダムを決壊させたり、雨上がりにカエルを追ったり、地を這うアリ、空を飛ぶトンボ、地面をほる、山を築く。

日々同じ様子はありません。

成長が刺激とセットともなれば、変化は常に遊びの創造力を刺激します。いうなれば、その庭の変化は、子どもと共に成長していきます。

 

■コミュニケーションと協力の要素

従来の平面の砂場と違い、遊ぶ空間と材料が格段に広がります。

木や地形がつくり出す細やかな空間や、落ちた枝葉や水場にやってくる鳥や虫や石などの材料が広がると、一人の興味で収まらず、遊びの世界を広げようとします。空想の世界をイメージしたり、役割分担をして見立て遊びをはじめたり、物珍しいものを追って不思議を共感したりします。共感を通じ、社会性や思いやり、喜び、くやしさ、向上心をはぐくみます。

「子どもは遊びを通して世界を体験しますが、それには、子どもたちが自然の中で環境というものを“把握”できるような身近な空間が必要であるからです。

石を引きずってみて初めて石とは何かを知り得ます。水や砂、土で遊んだことのある者だけが、その物質がどんな手触りで、それによって何をなし得るかを経験します。」と藤森平司先生が述べられています。

土の手触り、掘る、作る、だけでなく、よごす、転ぶのは成長の特権です。

 

■遊具と促進する要素

 

     土…指の感覚、こねる、掘る、丸める。固める、崩す。はだしの感触。

     水…温度、指の感触、流れ、光の反射、重力による移動、砂を崩す力の知覚。

     切り株…不安定なところを歩く。バランスを取る。木の匂い。よじ登る。片足で立つ。

     既存遊具…見立ての幅が広がり、庭全体のごっこ遊び、周回的な運動を促す。

 

・クライミングウォール:目と手の協応。つかむ、引き寄せる、踏ん張る筋力。手がかり、足がかりの位置関係を考える。視界に入らない突起の位置を覚える。達成感。

・登攀木:全身の筋肉、平衡感覚、重力、高さの恐怖克服、手足の連動、達成感。

・トンネル:隠れ家、リラックス、ごっこ遊び、想像力。背を低くして歩く。コミュニケーション。

・斜面:のぼる、降りる、バランスをとる、横に歩く、歩行のバリエーション。崩す、運ぶ。頂上から水を流す。全身運動。

・ベンチ:リラックス、コミュニケーション、観察、探求。

 

■保守とメンテナンス

作りこめる自由さを大前提としていますので、子どもが遊びの働き掛けをするほど、形状・景観が変化します。

年月が経つと、足元にこぼれた土を山にもどしたり、木材を取り換えたりと修復が必要になります。

しかしこれは、鉄やコンクリートと違い、形を新しくしたり、別の仕掛けを考えたりすることが容易ということでもあります。

成長を見守る中で、生まれるアイデアを形にすることができます。

既存遊具と同様、定期的なメンテナンスの上、長くご利用ください。

 

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コメント: 1
  • #1

    米増 徹 (水曜日, 24 8月 2011 21:25)

    お見事としか他に表現のしようがありません。
    さすが!!です。

    考え方いただきま~す。